砂の女/安部公房・・・ミクロの恐怖!!

砂の女 (新潮文庫)

砂の女 (新潮文庫)

なんだろ…読後感がべたつくというか…(^^; あんまり好きじゃない。

比喩表現がやたら多いのも気になりました。
うまいなーと思うのもあるんですが(というか安部公房は基本的にセンスいい。)でも屈折しすぎ;
物語の構成・展開や主人公の性質、部落の人間の狂気のすさまじさには感服です。
ひととおり読み終わって気づいたのは、一番狂ってると思ってた「女」が、実は一番マトモな人間だったってことでしょうかね。
マトモっていうか、素直?

そもそも煩雑な現実世界に幻滅した男が昆虫採集という現実逃避を目的に村にやってきて、監禁される…そこで「元の世界に何としてでも帰ってやる!」と意固地になるのが矛盾です。帰ったところでまた幻滅するのは明々白々。しかし男は、そんなことまで考えてません。「帰る」は目的、「逃げる」は手段のはずですがいつのまにか「逃げる」が目的で、行き着く先は見えていない。

これに対して女はじつに素直です。行くところがないから、この砂の部落に落ち着いてしまおう、という恭順さ。
適応力に富んでます。苦しい生活のなかにささやかな幸せを、きちんと見つけ出している。女は強い。
少なくとも砂の中で生活する女のほうが、外の世界にいたころの男よりも、ずっと充実した生活を送っていたということでしょう…。
問題なのは、あのラスト。これはどういうことなのか・・・安部公房の意図は?

なぜ男は、眼前に到来した「逃げる機会」を自ら捨てたのか。

子供ができたために情が移ってしまったから?それとも、無為の生活に溜水装置という生きがいを見つけてしまったから?
安部公房は以下のように書いている。
「彼の心は、溜水装置のことを誰かに話したいという欲望で、はちきれそうになっていた。」なぜ話したいのか。それはもしかすると女が言うところの「愛郷精神」の芽生えかもしれない、が、私にはどうしても、部落のものたちに対する復讐、としか思えなかった。