地獄変・偸盗 (新潮文庫)

地獄変・偸盗 (新潮文庫)

地獄変』(じごくへん)は、芥川龍之介の短編小説。説話集『宇治拾遺物語』の「絵仏師良秀」を基に、芥川が独自にアレンジしたものである。高校課程において本作を扱う学校は多く、芥川の代表的作品の一つ。主人公である良秀の「芸術の完成のためにはいかなる犠牲も厭わない」姿勢が、芥川自身の芸術至上主義と絡めて論じられることが多く、発表当時から高い評価を得た。
ウィキペディアから抜粋)

地獄変。高校の教科書にも載っているそうなので知ってる人も多いでしょうけど。
自らの芸術の完成のために、愛娘の命をささげた男の話です。

芥川龍之介って『藝術』の在り方について極めて独特で偏狭な見解をもった作家だよね…
ただの【娯楽】から小説家はじめた夏目漱石(学校でも作家生活においても芥川龍之介の恩師にあたる人)とはぜんっぜん違う!
芥川は自分の人生と命をまるごと芸術にささげた感。身を削って作品を生み出している印象。
しまいにゃ芸術に食いつくされて命を散らす…って書くと聞こえが良いけど
同じく作家の谷崎潤一郎と藝術をめぐって論争したときの意見をきけば「料簡狭いなぁ」と思わざるをえない。
(このへんの経緯については岩波書店から出版されている『文芸的な、余りに文芸的な』を読んでください)

彼にとっての藝術とは、夏目漱石でありボオド・レエルでありチエホフであり
ベッドの上で泣きながら読んだ志賀直哉の『暗夜行路』であったw

地獄変 は、そんな芥川龍之介のフェチズムが詰まっている…ように感じる。
醜怪な良秀、美しく心優しい娘、魑魅魍魎、地獄の業火、泣き叫ぶ女房、虐待される猿、そふとSMごっこ(はぁ?)(←良秀が絵のお弟子さんに対して行った奇行の数々)
きっとこういうものも芥川龍之介のいわゆる藝術とやら、なのかも。
危険…危険  でも嫌いじゃないぜ

本書にはほかにも『偸盗』『竜』『往生絵巻』『藪の中』『六の宮の姫君』など数々の短編が編纂されている。

印象に残ったものだけ内容をまとめておく(備忘録)。

■『偸盗』:今昔物語
これ…すごく面白かった。戯作にすぎることを嫌う芥川龍之介らしくない。スリリングな展開、息をつかせぬ戦闘シーン…!!どろどろの人間関係はヨーロッパの俗な小説みたい。近親相姦とか。
映画や漫画にしたらおもしろいんじゃないかしらん、なんて考えながら読みました。
女だてらに盗賊団の長をつとめる沙金がまたかっこいい!数々の男を翻弄する平安小悪魔ギャルです。大HIT上映中(謎放送)。
…が、作者である芥川さん自身は「いろんなトンマな嘘がある」とか「性格なんぞ支離滅裂だ」とか「安い絵双紙」とか酷評してるみたいですね。ならなぜ書いた??!!

■『藪の中』:今昔物語
“夫の目の前で妻がほかの男に強姦される”シーンを書きたかった芥川さん。とんだアブノーマル野郎だよ。
実はこの話、本当は作家仲間の滝井孝作が書くはずだった物語であったのを、芥川龍之介が手紙で直々にお願いしてネタを譲ってもらったのでした。
物語の構成は最初から最後まで誰かの独白で終わる。まるで推理小説みたいで面白いです。結局最後まで殺人の下手人が不明なのも…読ませる作品でした。

■『六の宮の姫君』:今昔物語
堀辰雄を始めとして芥川の「王朝物」中の白眉として推す人が多い
とあとがきには書いてあったものの、本書の短編中ではいまいち印象が薄い。
幼くして父母と生き別れ没落の一途をたどった儚い姫君の潔い人生…と解説したいところだけど
何かにつけて受動的で生きようとあがかない姫君にどうしてかイラッ…
最後に内記の上人が登場して「極楽も地獄も知らぬ、腑甲斐ない女の魂だ」と言っているのを見てなんとなく溜飲の下がる思いがした。