新装版 坂の上の雲 (7) (文春文庫)

新装版 坂の上の雲 (7) (文春文庫)

この巻では、奉天の会戦に眼目をあてています。じじつ、日本側の総司令官・大山巌は、「来るべき会戦は、日露戦争の関が原なり。ここに全戦役の決勝を期す」と訓示したように、日露戦争そのものをこの会戦で切り上げたい意図をあらわしています。
それについての司馬評がおもしろかった。

いったい奉天作戦は日本軍にとって勝利だったかどうなのであろう。さらに戦いにおいて『勝つ』ということはどういう基準で成立するのか。……
『勝った』
ということの判断基準のひとつに、その軍隊が作戦目的を達成しえたかどうかということがある。それを尺度にすれば、この会戦において日本側は負けはしなかったが、しかし勝ったとは言いがたい。なぜならば大山巌の前記作戦目的は達成されることなく三月九日の大風塵のなかで主力決戦はたち消えるごとく消えてしまったからである。

(p171以降〜)

戦争での勝利が、必ずしも、敵軍を「殲滅する」とか「撃滅する」とかいったことを意味するわけではないんですね。日本軍はこの会戦で辛くも勝利を得た。辛くも──つまり「殲滅」はできてない(退却させただけ)ということなんですよ。

クロパトキンの繊細な思考回路を撹乱し、よく戦った鴨緑江軍。「何やってんだァア〜はよ北進せんかい!!」としじゅう司令部に怒鳴られっぱなしだった可哀想な第三軍(乃木軍)。奉天の北方に進出してクロパトキンに精神的な不安を与えた秋山(兄さん)支隊…
これらの猛攻をうけてロシア軍は陸続と北方へ敗走していく。もちろん、日本軍には追撃できるよーな余力などない。日露戦争終結させるべく、両軍まさにドロ沼の死闘を演じたのであった。


で、あとは「東へ」「艦影」「宮古島」の章で、ロジェストウェンスキー率いるバルチック艦隊が、マダガスカルを出航し、対馬海峡経由で、ウラジオストック向けて東北へ進行し始めたことが書いてある。

太平洋経由なのか朝鮮半島系由なのか甲論乙駁、どっちを通るかが海軍の勝敗を決するわけで、秋山真之はああでもないこうでもないとひたすら懊悩します…ノイローゼになりかけて靴はいたまま寝たりします…(笑)笑っちゃだめだけど可哀想なような可笑しいような

宮古島」の章では、知られざる(歴史にうずもれた)日本の小英雄たちのことがかいてあって、司馬遼太郎の個人的な愛情(素朴な国民への愛情)が伺えて、和んだ…。