新装版 坂の上の雲 (6) (文春文庫)

新装版 坂の上の雲 (6) (文春文庫)

前の巻の黒溝台からの続き。

李大人屯に在る秋山騎兵主力部隊は辛くも屯営を死守していた。脆弱な日本軍に比べて押し寄せる露軍はさながら波濤の如し。日本軍は兵力の逐次投入という戦略上の禁忌を犯したり、黒溝台を一次的に放棄する策を採用してしまったり…と失策が続く。そんな状況で総司令部は臨時に立見尚文(中将・第八師団)に最大規模の「軍」を率いさせ(臨時立見軍)、黒溝台をようようの思いで奪回したのだった。
(クロパトキンとグリッペベルグ大将の個人的な諍いが原因で露軍は撤退せざるをえなかった感もあるが、それにしても日本は運がヨカッタと思う)

戦争というものは、そもそも圧倒的大多数の兵力をもって敵軍を一網打尽にするのがノーマルなのであり、少人数で大多数を相手にするのは非常に無謀というか不健全な策なんですね。徳川300年の泰平のあいだに士族はそういう最もノーマルな感覚が欠如してしまった。かわりに、彼らを感動させた軍談はことごとく「少人数が大人数の手勢を防いだか、もしくは破った」という「不健全」な物語ばかりで(たとえば源義経、楠正成、豊臣秀頼の大阪の陣、真田幸村後藤又兵衛らは英雄)こういう背景があったので日本軍は危険をかえりみず無謀な戦争をやってしまったんですが…日露戦争の場合、政治面でなんとか終戦にもっていけたけれど、昭和の対戦ではこの感覚のお陰で見事に敗戦してます。あな情けなや。

「大諜報」の章が一番面白かった。明石元二郎の独壇場で、まるで007の世界。
明石はシリヤスクという革命の志士と知り合い一蓮托生、彼をつうじてスウェーデンフィンランドポーランドなど、ロシアに反感を抱く革命分子たちとの交流を頻繁にし、ロシア国内で後方撹乱を狙う。そんな状況下で「血の日曜日」事件が起こった。もはやロシアの革命は加速度的にすすみつつあった。
レーニン明石元二郎が友達ってのは初耳でしたが。明石一人の活躍で、陸軍まるまる一個(或いは海軍一個)ほどの功績があるっていうのがスゴい。

マダガスカルに碇泊中だったロジェストウェンスキー率いるバルチック艦隊は、重い腰を持ち上げようやく出向した。
旗艦スワロフの技師・ポリトゥスキーがとても好き。彼はしごくまっとうな思考能力をもった常識人で、嬉しいことは素直に喜ぶし、怒ったときは長々愚痴るし(妻への手紙で)、私はこの青年がロシア勢の中で一番好きかも知れない。どうしよう非戦闘員なのに…
ロジェストウェンスキーの相変わらずの傍若無人っぷりには爆笑しました。望遠鏡、水兵の頭ぶん殴るたびに壊してたそうです。旅順艦隊がすべて沈められてしまったので、バルチック艦隊の乗組員は前途不安だったろうなー…士気の低下につながるのもショウガナイ気がする。

旅順を攻略したので乃木軍は北進して、ついに決戦の場──奉天へ。
さあ、これからまた大会戦が始まります。どうなる満州軍?