新装版 坂の上の雲 (4) (文春文庫)

新装版 坂の上の雲 (4) (文春文庫)

遼陽の会戦、沙河の会戦、旅順総攻撃…と
陸軍の舞台が多かった気がします。

遼陽の会戦ではあともう一押しでクロパトキンの勝利だったのに、惜しかったな〜。
なんていうかクロパトキンもロジェストウェンスキーもそうなんだけど、完璧主義者というか優等生というか、『常に余裕をもって相手を完膚なきまでに叩きのめす』ことを理想とするあまり、自分が攻撃されて傷つくのは極端に恐れるんですよね。
そしてそれは、実際の戦場向けではないということなんですよね…。私は戦争とか軍隊の作戦のことはちょっとよくわからないんですけれど、犠牲が出ない戦争なんてありえないのはわかる。
クロパトキンは黒木為鋤キを恐れるあまり遼陽の会戦の勝利をつかみ損ねた。ロジェストウェンスキーも恐怖しすぎてイギリスの平和な漁船を日本の水雷艇と勘違いし、ボコボコにやっつけて国際的な非難をあびた(ここらへん、司馬氏がかなりコミカルに書くもんだから笑ってしまった…)

そして苦痛でしょうがなかったのは 旅順 の 章・・・

で…でた、乃木希典愚将説…

坂の上の雲』は、今まで悲劇の将軍として神格化(?っていうかそれに近い状態)までされていた乃木希典将軍を、コキおろして無能としたことで有名な小説ですが…
四巻は特に激しい。乃木さんめちゃくちゃに言われているなー無能無能って司馬さんそこまで言わなくても
まぁ乃木さんの所為というより伊地知幸介がアレなんだけど 問題なんだけど
いや、それでも伊地知さん一人の責任というわけでもないでしょうに。満州軍にも大本営にも直接指令をくだせる権限がなかったという問題、旅順要塞について甘い認識しかもっていなかった問題、そもそも旅順攻撃に乃木をあてたのが問題(そして長州閥維持に乃木を推薦したのは山県有朋)…挙げたらキリがないのですが。
それにしても読んでてときどき思ったのだけど司馬先生って海軍贔屓でないか? っていうよりも海軍と違って昭和の大戦までずっと軍閥の色の抜けなかった陸軍が嫌いっぽい
海軍は山本のゴンベさん(山本権兵衛…正しくはごんのひょうえ、と読むのでしたっけ)が維新の功で軍にはびこっていた古参の無能軍人の大クビキリやって軍閥はひとまずのところ解消していたのだった。

陸軍も海軍に歩み寄って軍閥対策なにかひとつでもやっていれば後世への悪影響も少なくてすんだのだろうに。

それにしても旅順、苦痛だ。機関銃、探照燈、鉄条網、塹壕にうず高く積み上げられる死体…三千百余人、決死の白襷隊は千五百人の血けむりをあげ何らの戦功もなし。彼らが幸福だったのは、乃木軍司令部の無能を知らなかったこと。司令部の作戦の絶対性を信じて死地へと飛び込んだ。自分の命が祖国のためになると信じていた。しかし現実は──まったくの無駄死にといわざるを得なかった。

乃木や伊地知を断罪しなければならないのは
彼らの愚かな作戦で無駄な犬死にを遂げた兵隊が何万といたから…司馬氏の憤りは乃木軍司令部の頑迷さ、無能さにむけられている。