ニコポン閣下はオモテで笑って影で泣く☆彡 悲劇の桂太郎ちゃん☆彡

明治の武人宰相 桂太郎の人生 山河ありき (文春文庫)

明治の武人宰相 桂太郎の人生 山河ありき (文春文庫)

維新後、性急な近代化を遂げる日本、その途で迎えた難局──日清戦争日露戦争
日本は開国の産声をあげるとともにめまぐるしく変化する海外の向かい風をうけて翻弄される紙きれのような国だった。
そんな怒涛の時代に、日本を支えんがために三度も首相になった男がいた。ニコポン大臣こと、桂太郎である。

古川薫先生の桂太郎小説!あのー、桂太郎ってものすごく目立たない人だと思うんですけど…古川薫先生てちょい地味な人を引き立てるの、すごくお上手。久坂玄瑞とか山田顕義とかも…目のつけどころが違うなぁ!やっぱ尊敬(古川薫ファンです)。
この小説は『天辺の椅子─日露戦争児玉源太郎』と大いにリンクしてるので、両方読むことをお勧めします。

ニコポン大臣。ニコっと笑ってポンと肩を叩いてくるフレンドリーな(…政敵を懐柔する桂のやり口だ、との声も)…柔軟な姿勢からついたニックネームです。
なんか、かわいい(笑)

桂太郎内閣と西園寺公望内閣が交代交代で設立する「政権タライまわし」は“桂園内閣”などと揶揄されたそうですが、
政党・官僚・貴族院の三勢力の均衡を成立させるための政治的な妥協(と忍従)は…桂太郎の「信念」だと解釈してあげようよ。
政治って潔さよりもむしろ粘着が必要だと思います。
潔く辞めた安倍晋三さんよりも粘着の小泉さんのほうが政治家として信頼できますもの(…失礼)(だがしかし政治は内容も大切ですよ)

桂太郎が「立憲同志会」という念願の政党結成を果たしたとき、政党嫌いの山縣は「今まで可愛がってやったのに、おまえ俺様を裏切るのか!(怒)」などといって(私が言わせただけですが、内心そう思ってたに違いない。)側近だった桂太郎を絶縁してしまうのですね…ここにきて初めて山県有朋桂太郎との「蜜月」な関係にスキマ風が吹いた!
それにしても、桂太郎ってほんとに多難な人生を送った人。病魔に侵され満身創痍の体をひきずる晩年であってもなお激務に励んだ桂太郎。心身ともに疲労困憊して、倒れるように鬼籍の人となった。なのに現代の人々の、桂太郎に対する評価って…わりとキビしい。

「山河ありき」
この小説のタイトル。桂太郎はひとに揮毫を求められたとき、しばしば「青山元不動、白雲自去来」と大書した。

日清・日露戦争の勝利を経て、台湾の割譲、韓国併合と拡大された版図を新しい山河として視野にとらえるわずかな歳月を生きて太郎は歴史から消えていった…
アジアの山河は、民族の誇りと歴史の反省と新しい理念の創出を待ちながら確固として存在する。悠々たる白雲おのずから去来する青山は動かないのだ

太郎のえがいた山河はたぶん、アジアの山河≒亜細亜主義
その理念をあらわすものが、たとえば拓殖大学…(桂太郎が学祖ですが、)純粋にアジア発展のための教育機関として設立された学校。
アジア全体の平和、時勢としてそういう発想は必然であり必要であったと思う。欧米列強からの防衛手段としても。古川薫先生の言葉を借りるなら

民族的エゴイズムを拭き消した視野に映る山河に青春の血を燃やし、青山に骨を埋めようとしたおびただしい純粋な日本の若者たちがいたことを私たちは記憶しておきたいのだ。

そういうことです。しかしね!!

(韓国)併合による半島近代化の進展その他を挙げてみても、それは支配する側の論理で観察できる『禍福』でしかなく、亡国の悲しみと怒りにくれる民族の痛みをぬきにして、この歴史は語れない

古川薫せんせいのすげえところは、内省的なところです。そして小説の底辺に流れる、アジアと民族を包括する壮大なテーマは現代にむけて投影されているのです。ある意味、問題提起で物語が完結する。

私たちがそれにどう応えるか、です。