花冠の志士 小説久坂玄瑞 (文春文庫)

花冠の志士 小説久坂玄瑞 (文春文庫)

玄瑞がこよなく愛し、歌にもよく詠んだ花は、桜であった。そして、華やかに、うるわしく、いさぎよい青春にちなんでいうなら、その頭上に戴く武弁は、やはり若桜の花冠でなければならない。

維新の英雄、久坂玄瑞の小説。吉田松陰の高弟で、高杉晋作と「双璧」と並び称される人物です。
この本は、戦後の日本では最初で最後の、玄瑞主人公の歴史小説です。

ぶっちゃけると久坂玄瑞って、幕末の当時は☆ヒーロー☆で彼の名は全国に知れ渡っていたし桂小五郎と張るくらいの
才人かつ有名人だったハズなんですが、現代では不思議とあまり評価されませんよね。矢張り、彼が“頑迷な攘夷主義者”だと
思われているからでしょうか?私は、それは違うと思うなー。

・・・で、私はこの小説を読むまで久坂玄瑞にはなんとなく「秀才」だとか「優等生」だとか、そういう一面的なイメージしかなかったんですけど、この小説には久坂玄瑞心理的葛藤や、逡巡する肉体的な「人間」の姿が生々しく書かれていて新鮮な驚きがあるのです。

玄瑞は若くして(二十五歳という年齢で)禁門の変で儚くも命を散らしますが、青年・玄瑞の悲痛なまでの憂国の情熱はその後の全国の志士に脈々と受け継がれていくのです。
桂小五郎高杉晋作などはもちろん、奇兵隊隊士たちにも…(奇兵隊の前身は、久坂玄瑞を首領とする「光明寺党」)。

彼らの奮起を促した点で、吉田松陰(玄瑞の師)と同じ位、尊い死だと思うのです。この小説では、その死の描写がとくに詩的に美しく、儚く、潔く、描かれていて、ここがまーたイイんだ。大好きだ。久坂玄瑞はホンット、医者のくせに武士以上に武士道を貫いたヒトだよねー・・・(といっても志士活動後期には、藩から「大組」という士分を与えられますけどね)。

長州系志士のリーダーとしての、また青春期という多感な時期に政治活動や恋に命を燃やした、ひとりの青年としての、
玄瑞の雄姿を見ることができて、本当によかった。

この小説に出会えたことを、作者の古川薫氏と神に感謝したいです。
大好きで大切な小説です。学ぶところもあり、たくさんの感動を頂きました。
私が久坂玄瑞ファンになるきっかけを与えてくれた小説なのです。