誰しも憧れる、永遠のローマ…。

『世界の歴史シリーズ』第三巻、ローマ帝国の滅亡=410年・西ゴート軍のローマ帝国侵入から歴史をさかのぼって帝政時代まで至り、その支配とそれのもたらす「平和」(…そもそも「平和」はパックス・ロマーナという名のもとでの支配無しにありえない)を史料を交えつつ解き明かしてゆく歴史書

まずはじめにローマ帝国の滅亡から…
ローマ帝国、いっときはブリタニア(現イングランド)地中海から小アジア(現トルコらへん?)まで支配の触手をのばし「世界の中心」であったローマ帝国は、なぜ410年になっていとも簡単にまったくなんの感動もなしに西ゴート軍によって攻め滅ぼされたのか?
それはローマ人の、ゲルマンや蛮人に対する蔑視的観念かもしれないし、キリスト教的ローマ理念かもしれない。
しかしローマ人は、帝国内にゲルマン人の受け入れをきわめて寛容な態度でおこなっていたし、ゲルマン人ローマ市民権を与えられた者もいた。だけでなく(ローマは多民族国家といってもよいから)たとえばユダヤの王ヘロデもアンティパル(父)からローマ市民権を獲得していた。
地中海における支配者としてふるまえる市民権を持ちながら、ヘロデはローマに対して「従属国」であるユダヤの王(しかもアラブ系の血も混ざってるんだよね)。(そんな雑多さは彼の治世の不安定さに反映されて…実の子を悉く殺したりして)(脱線してる)

論旨を戻す。…ローマ帝国がなぜ滅んだか?そして「410年」を体験したローマ人…他民族に対して高慢で自尊心のつよいローマ人たちはうまれて初めて味わった絶望的な「挫折」で何を感じ、何を学んだのか。

四一〇年八月二十四日の事件に接した時のローマ人の苦悩は、まさに死に直面して生の意味を見いださなければならない死の淵に立った人間の苦悩であった。彼らは、死の淵からみずからの生をふり返り、その意味を問い、みずから懺悔し、みずから反省し、許されたかぎりの残りの生を歩もうとした。その精神の苦闘の中から、彼らはローマの歴史の意味に肉迫する洞察をかちとっていった。

──カルガクスの『アグリコラ伝』はちょっと萌える(…)カルガクスの言うようにローマの支配よってもたらされる「平和」とは

全人類の中でやつら(ローマ人)だけが、世界の財貨を求めると同じ熱情でもって、世界の窮乏を欲している。彼らは、破壊し、殺戮し、掠奪することに、偽りの名前をつけて”支配”(インペリウム)と呼び、人の住まぬ荒涼たる世界を作りあげたとき、それをごまかして”平和”と名づける

服従することで侵略をまぬかれる=平和
この構図は「支配国ローマ」と「服従する国々」で世界を二分していることを如実にあらわす方程式のようなものか。
人の住まぬ荒涼たる世界。たとえばそれはエルサレムの「嘆きの壁」で、ローマ人の侵略と統治によってユダヤ人は国を追われ流浪の民になった。ローマ帝国ユダヤに「平和」という名の破壊を押し売りしたのである(ユダヤ人にとっては、そんなん…イラネ、…ってかんじですね)

絢爛豪華な芸術とギリシャ文化的淫靡な性生活と甘美な服従、美しく、華やかなローマの知的文化。
そのウラに蠢く陰謀画策、ときには親でさえ子でさえ殺すのも厭わない権力抗争、めまぐるしく動く激動の時代。
奢侈・贅沢・浪費・悪徳、あらゆる退廃は文明の繁栄と双生児である。退廃と繁栄は切って離せない関係である。
しかしながら退廃だけがローマ人の内面を表すのではない。彼らはうつくしく敬虔な夫婦愛・家族愛に理解を示したし、憧憬を感じもした。
ローマ人の人間性は堕落と謙虚の間をゆれうごく不安定さをもっていた。

こんにちまである種のノスタルジイをもって称えられる永遠のローマ…ローマの永遠性、誰もがそれに憧れた。コンスタンティヌス一世(大帝)、モスクワ大帝イワン三世、ナポレオン……過ぎ去った永遠のローマの時代をもとめて自らそれを踏襲しようとした。けれど失敗した。それもそのはず、ローマは永遠ではなかったのだから

だけど、私は思った。
永遠のローマのイメージは小プリーニウスに代表されるような「グローリア」(栄光)を追う人々によってつくられたのかもしれない…と。彼、小プリーニウスは言う。

われわれには長く生きることは拒まれているのですから、生きていたことの証しとなるようななにかを残そうではありませんか。

「グローリア」(栄光)はこの時代では政治的な偉業をのこすことであったが、帝政以来、行為(偉業をなすこと)は皇帝の手に握られているから不可能である、という、そして小プリーニウスは続けて言う「せめて学芸によって」「生きていたことの証しを残そう」と。

死すべきものたることを忘れ給うな。死すべき運命から君を救い出しうるのは、作品だけです。他のすべての物は脆く、人間と同じように、倒れてなくなってしまいます

グローリアを求めてローマは繁栄する。滅亡したのちもグローリアは消滅することなく、永遠に燦然と輝くのである
永遠のローマとは…グローリアのことだったのか!と読了後にやっと腑に落ちたかんじ。